1問あたりの平均文字数(?、「、」も含む。また所々訂正されている場合があるので、正確さを若干欠いている可能性があるが、大まかな流れがわかってもらえればよい。)
残念ながらクイズ王番組の問題集は、発行に際して問題文を若干縮めてしまっているので、代わりにクイズ王時代の問題集をサンプルデータとした。そしてオープンは能勢本以降に開催された大会について取り上げる。いくつか取り上げたデータで、一番文字数が多かったのが101文字のリベンジ杯。逆に一番少なかったのが33文字の長戸本。実に6年間で3倍の長さであるが、これは極端な例である。これでは私のコラムを成り立たせるためだけに取り上げたと見られる恐れがあるので、昔・今でもう幾らか取り上げた。見てお分かりの通り、約1.5倍の増加である。
とりあえずのところ、クイズ大会での問題文が長くなっていることはお分かりであろう。これは別に無理矢理長くしているわけではなく、問題文が長くなった背景はちゃんと存在する。まず、昔のクイズは知識よりもスピード重視であったこと。昔のクイズを一例として挙げる。
問題「オーケストラの音合わせに使われる楽器は何?(答:オーボエ)」
まぁ、いわゆる単文問題で、ごく基本的な形の問題である。この一例は特に短いのを持ってきたわけではなく、昔のクイズ問題の大部分がこの形の短い問題であった。もっとも、昔と言ってもクイズを始めたての人ならば大抵はこうした問題を作るだろうし、今でもこうした形の問題はたまに出される。さて、この問題についてである。クイズの強い人でなくとも、私のようにクイズ番組をよく見ていた人ならば「音合わせ」のあたりでババッと押しに来るだろう。そう、つまり押すポイントが特定の位置で決まってしまい、指の早さで優劣が決まってしまうのである。ここまで聞いて、何で「音合わせ」の所で押せるんだ?と疑問に思った人もいるだろう。その理由は、かつては多くの視聴者参加クイズ番組があり、そこで出題されていくうちに問題文がまとまっていったり、出題しやすい問題が精錬されていき、「ベタ問題」と呼ばれる、クイズ番組でよく出題される決まり切った基本問題が自然と形成されていったのである。そういうわけで、昔は基本問題をより多く知っていることがクイズに勝つことの第一条件であり、それがクイズの強さに直結したのである。裏を返せば、クイズ番組で出題される問題を知っているだけで十分で、あとは指の早さと、早い段階で押しに行く度胸で勝敗は決まったのである。(もちろん、地雷問題を押さないといった勝負勘なども必要だが、ここでは割愛させてもらう。)
だが、「アメリカ横断ウルトラクイズ」(日本テレビ系)のみであったクイズ王番組に「史上最強のクイズ王」(TBS系)、「FNS1億2000万人のクイズ王決定戦」(フジテレビ系)といったクイズ王番組が半年に1回のペースで行われるようになり、従来あった基本問題だけで十分というクイズが徐々に変わりつつあった。「史上最強」ではより難度の高いクイズ、「FNS」では今まで出題されなかったようなジャンルのクイズが求められたことで、スピードのみのクイズが一変し、知識重視のクイズが浸透しつつあった。そして、クイズ王番組では物足りなくなった大学サークルが中心となって、「オープン大会」というクイズ大会が行われるようになった。
最初のうちは、オープン大会もクイズ王の番組を想定した形のもので、クイズ番組に出る問題を考慮に入れ、問題文の長さは特に変わりがなかった。だが、知識重視によるクイズは視聴者離れを生み、クイズ王番組は視聴率低迷が主理由として消滅した。それによって、今まで「クイズ王の番組では出題されないから」といった理由で敬遠されていた、長い文章の問題が用いられるようになった。要するに、それまでクイズ番組が問題文の形を作っていたが、そのタガがはずれたことで自由な形の問題が作られるようになったのである。
「オーボエがオーケストラの音合わせに使われるのは、温度差による音程の狂いが少ないため。」
という事実が判明する。
長文のクイズが発達した1つの理由に、出題されていないであろう要素を、自分が見つけてきて出題するのは、クイズプレイヤーにとって喜びでもあるからであろう。私は昔のクイズ問題集で、「自分が(初めて)出題した問題がどこででも使われるようになり、基本問題の一つとして定着するのはうれしいものである」という文章を読んだ記憶がある。プレイヤーの心理としては自分の問題がみんなに知れ渡るということが喜びであるというのは共通のことである。実際そうでなければ、自分が新しくフリを付けた問題を好んで人に見せる&出題するということは誰もしないだろう。
そして調べた結果から、次の問題を作ることができる。
「温度差による音程の狂いが少ないため、オーケストラの音合わせに使われる楽器は何?」
これで、オーボエに関するより深い知識を持っている人は、「先読み」(問題がどう続くかを推測する行為)することで「少ないため、オーケストラ」のあたりで押すことが可能になる。こうした、既存のクイズ問題から派生させるクイズは、第3回K−1グランプリ問題集の中で永井荘一郎が提唱し「デリバティブクイズ」と命名されることとなった。(ただ、この用語を使っている人はほとんどいない)
こうした問題が普及することで、さらにもう一段要素を組み込めば、より確かで詳しい知識を有する人が優位に立て、限られた範囲からしか出題されないスピードのみのクイズはオープン系大会には不用の存在となった。そして今日のオープン大会で出題されるクイズの大部分、場合によっては100%が「デリバティブクイズ」となった。
かつては、クイズ番組で出題される問題が、クイズプレイヤーにとって全ての存在であり、クイズ番組で出題されない問題は忌み嫌われる存在であった。だがクイズは知識による勝負であり、特定の範囲でのみ出題されるクイズは飽きられたのだろう。クイズ番組が衰退したことで、見えない規制が取り払われ、オープン大会におけるクイズは劇的な変化を遂げたのである。クイズは森羅万象が対象である以上、その出題範囲が多様になるのは必然的な結果と言える。そしてスピード勝負だけのクイズがそっぽを向かれ、知識を競うために問題文が長くなることもまた同様。もっとも、クイズは進化するものであり、既存の問題に知識を付け足して行くだけのデリバティブクイズが万能であり続けることもないだろう。
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